今年で第3回を迎える「目白バ・ロック音楽祭」、今回のテーマは「ラビリンス」。目白に迷い込み、リアルで静かな驚きと深い感動を体験してください!
季節はこれから梅雨から夏に、この時期各地で精力的にライヴやコンサートがスタートします。アーティストの生の歌はもちろん、周りの人たちとの一体感や会場の雰囲気なども楽しめるライヴ。お部屋のプレイヤーで聴く音楽とは、ひと味もふた味も違いますね。そこで今回ネイロマニアではおもしろいイベントを発見!その名も『目白バ・ロック音楽祭』。東京都豊島区・新宿区・文京区の区界にある目白界隈を中心に、教会や大学など合計12箇所で開催しています。開催期間は6月1日(金)から24日(日)まで、多くの個性的なアーティストが出演。さて一体どんなイベントなのでしょうか、実行委員長である筒井一郎さんにお話を伺いました。
■音楽祭のテーマを教えてください。
目白という「バ=場」に「ロック=挑戦的な人」が集まるというのがこの音楽祭のコンセプトです。音楽祭って名のつくイベントって全国にたくさんありますよね。またいわゆる○○コンサートなら1日に数百〜数千あるでしょう。それに単に音楽が聞きたければiPodに代表される「いつでもどこでも音楽が聞ける」ようなヘッドホンで満足できますよね。いまや演奏技術があるとか上手いというのは当たり前だし、もはやそれだけで人を集まらないでしょう。なにか特別なテーマが必要なんです。
アーティストならば「個性」ですよね。それをコマーシャリズムにのせたり、マスを相手にするビジネスを仕掛けていくのでしょうが、音楽業界でも演奏家でもないデザイナーの私がやる理由は、新しい音楽の聞き方、楽しみ方を発明することなのです。これが「デザインする」という仕事です。だから、iPodで聞くような耳鳴り音楽ではなく、目白という「場」にこなければ体験できないような臨場感にこだわった音楽イベントをつくりました。
この音楽祭のシンボルはイタリア・フィレンツェの画家フラ・アンジェリコが描いた「受胎告知」です。大天使ガブリエルがマリアにキリストを受胎したことを告知するという図で、私がもっとも大好きな絵なのです。この絵に習い、目白に舞い降りたロックな人が奏でる音楽が、目白にこられたお客様に、予想もできないような強いインパクト(事件)と遭遇できるような神秘的な場づくりができたらと考えました。
目白バ・ロック実行委員長 筒井一郎氏
自身も《デザインとは時代の2歩先を実行すること》が信条のアーティスト。アートをする挑戦者には正当な評価をされるべきという気持ちと、同志だからこそ分かる出演者への思いが込められている。
■どんな音楽が楽しめるのですか?
「バ・ロック」というのはさっきも説明した通り、「バ」と「ロック」を組み合わせた造語なのですが、実はいまのところロック音楽ではなく、中世〜ルネサンス〜バロック期の音楽をあつかっています。この時代の音楽なんで聞いたことないでしょ? だから古ければ古いほど新しいという逆説的なコンセプトで勝負しています。
音楽の本質へと迫る現代のロックな挑戦者による演奏会を、第3回となる今年は、目白の歴史的建造物や教会など12会場で全26公演を行います。王侯貴族に捧げられ宮廷のサロンで奏でられた優雅でエレガントな響き、また聖母マリアに捧げられた荘厳な調べ、日々の生活を解放する楽しくノリノリな世俗音楽などを、いわゆるコンサートホールではなく、誕生した音楽にふさわしい「場」で演奏することにこだわっています。なぜこのような音楽が誕生したのかを謎解きするような「体験」ができるかもしれませんよ。楽器がもつ生の音を丁寧に伝え、作曲家が「音」に託して捧げた気持ちなどに、聞き耳を立てる。そんな静謐で贅沢なイベントです。わかりやすく説明すると、1,000人のお客様に音楽を伝えるのに「1,000席の大会場で1回で演奏する」「200席の小会場で5回に分けて演奏する」という方法がある場合、後者を選択するのが「バ・ロック」流なのです。
ライヴだけではなく目白に宿泊するアーティストの生活を見ることができる音楽祭。街で見た1コマがきっかけで、ライヴに足を運ぶこともありそう。会場でI Love Youを受け取れば、たちまちファンに!
■小会場ならお客様がアーティストを間近で見ることができますね?
そうですね。演奏家との距離が短いから、顔や表情が見えるし、演奏している手の動き、楽器が音を奏でる仕組みなど、おもわぬハプニングなど、音楽がつくりだす場の空気を満喫できます。昨年も面白いことがありました。レツボールさんというバロック・ヴァイオリンの名手をオーストリーから招聘しました。目白の駅前のホテルに宿泊し、赤いシャツで毎朝散歩し、食事も目白でしていました。関取のように体格のいい方で、とにかく目立ちます。その彼が聖母病院のチャペルでコンサートしました。ガット(羊の腸)弦を2度も切るというハプニングもありましたが、共演のR.ダルカディアとの感動的な演奏会でした。翌日は彼のソロ公演があったのですが、見事全席完全完売を成し遂げました。
前日の演奏会のお客様が当日券で来られたのだと分析しました。この時、アーティストと職人の違いを明確に理解しました。音楽家である以上、技術があるのは当然のことです。つまり職人であることはことは当たり前なんです。けど職人は自分の半径1m以内のことにしか興味がないという傾向性をもっています。つまり「I Love Me」なんです。アーティストというのは「I Love You」という気持ちを音楽に乗せて届けられる人なんですね。だから気持ちを受け取った人はファンになるんです。音楽を聞きにいくのではなく、人に会いに行くことにこその価値があるということなんです。だから、目白バ・ロック音楽祭に参加する出演者の方々には目白という《場》で音楽会をやる意味を問いつづけたいと思いました。
アーティストがするべきことは「伝える」こと。彼らが持っている素直な気持ちを大切に、そういう人には祝福を与えるべきなのではないか。その2つを合わせて音楽祭をチャンスの場にして欲しいと語る筒井氏。
■しかし日本は特に、無名のアーティストを注目する傾向はありませんよね。
そこに、目白で行う理由があるんです。例えば「A氏のコンサート」と「目白バ・ロック音楽祭のA氏のコンサート」とでは、印象が全然違うでしょ? 音楽マニアやファンであればA氏のコンサートに対して反応できるだろうけど、それでは目白でやる理由にならない。「目白って途中下車したことないのでよく知らないけど音楽祭やっているみたい」・「目白の教会や歴史的建物で音楽が聴けるって楽しそうだね」とか、「週末目白散策がてら音楽でも聴きましょうか?」など、目白というブランドと、お客様が思い描く音楽祭のイメージとが興味を喚起することで、私たちが自信を持って推薦する《ロックな人》を紹介していこうと考えています。これってA氏にはできないことでしょ。私たちは明らかに、A氏に新しいファンをつくりだしていると思いますよ。
あと、Web2.0時代ということも見逃せませんね。第1回開催の時は、《目白バ・ロック》という固有名詞をGoogleで検索したとき350件でした。それが第2回で3万件となり、現在は5万件近くがヒットされます。それだけリアルでの感動の連鎖が広がったということでしょう。バ・ロックな方々の力の結集で《目白バ・ロック》はブランドになりました。《目白バ・ロック》は挑戦するロックな人にチャンスの場を提供していけたらいいですね。
音楽祭には目白の町おこしというコンセプトはなく、参加してくれてた店舗のやる気が自然とつながっている。広いエリアでそれぞれがやりたいゲームをして遊ぶ、それが都市活性化になる。
■今後の音楽祭は何を目指しますか?
アートを生活の一部にしたいですね。アートを解釈しようとするのはナンセンス。アートは生活の必然性から生まれたものです。だから理解ではなく楽しんで欲しいし、楽しみ方を発明してもらいたいですね。
Web2.0の悪いことは、簡単に情報が収集できるから頭でっかちになりがちなこと。体験もしていないのに、わかる訳がない。「簡単・便利・安い」という価値観は人間を馬鹿にしていると思いますね。人間はもっと神秘的です。世の中が目的しか見えなくなったら恐ろしいですよね。例えば、演奏会に来ても目的の「演奏者」しか映像がなかったら、なんて味気ない世界でしょう。空間的余裕が人に豊かさを提供するなど、当たり前のことですよね。なのに人は家から出なくなり、テレビ画面とにらめっこ、PC画面とにらめっこ、そして携帯画面へと、どんどん画面が小さくなっていく。日本人全員が極小画面とにらめっこして生活する。これがデジタル技術が目指す社会ですか?って。だからってデジタルを否定するつもりはありません。デジタル家電の視聴率がいいというのが事実ですから、積極的に目白バ・ロック音楽祭の情報をWeb2.0を利用して発信していきます。けどそこがゴールではなく、目白というリアルな場に集客し、豊かなアナログ音楽をお客様に伝えて、アーティストやお客さん、そして目白で活躍する方々と楽しく交流することをゴールにしたいと考えています。
東京都文京区にある「東京カテドラル聖マリア大聖堂」にて、行われた「ヴェネツィアの晩課」。歴史ある建造物でのライヴは、他では味わえないほど美しく感動的だ。
筒井さんのインタビューが終わったあと、マリア大聖堂でライヴを体感してきました。上空から見ると十字架型に立つ大聖堂に入ると、教会でのライヴ初体験の私はドキドキワクワク。
この日のテーマは「ヴェネツィアの晩課」。世界最高とも言われるイタリア・声楽アンサンブル、ラ・ヴォネシアーナ。同じくイタリアを代表するバロック・ヴァイオリン奏者、エンリコ・ガッティ。オーケストラには、リクレアツィオン・ダルカディアが演奏。総指揮者はラ・ヴォネシアーナのクラウディオ・ガヴィーナ、と蒼々たるメンバー!ライヴの第一声を放つオルガンを囲むように、ヴァイオリンやハープのオーケストラが配置されていました。お客さんの方を向いて指揮を執りながら歌うクラウディオ・ガヴィーナの声に感動。そして次々と美声を放つ声楽アンサンブルにうっとりしました。初めてのバロック音楽はとっても新鮮で、全身を刺激された感覚。過去には体験したことのない、体に心地よく響く音楽でした。筒井さんが言う「古いほど新しい」という観点にも納得です。余韻を残したまま目白駅まで向かうと、マリアフィールドを散策したくなりました!
この音楽祭は6月24日(日)まで、一度騙されたと思って音楽祭に行ってみませんか?そこにはきっとあなたが今まで知らなかった、リアルな感動が待っているハズです。さあ今すぐオシャレをして、素敵な出会いを探しに目白へ向かいましょう!
『目白バ・ロック音楽祭』 http://i-debut.org/ba-rock/
2007年6月1日(金)〜24日(日)まで、目白駅を中心に、東京カテドラル聖マリア大聖堂や目白聖公会、立教大学などを会場にして行われる音楽祭。
筒井 一郎(ツツイ イチロウ)/デザイナー・株式会社ヌールエ社長
『目白バ・ロック音楽祭』の仕掛け人。「バ・ロック」のバ=場、ロック=人と言葉の生みの親でもある。実行委員長として仲間を引っ張り、イアンとしてアートディレクターも手掛けている。
STAFF NO.8
コバヤシマユコ/エディター
2001年よりWEBライターとして活動。2002年より雑誌連載・フリーペーパーでのライティングをスタート。音楽専門フリーペーパーなどでは、アーティストのインタビューページなどを担当する。最近の趣味は写真。
STAFF NO.5
尾鷲 陽介(オワシ ヨースケ)/カメラマン
1977年生まれ。北海道名寄市出身。
美大で工業デザインを勉強後、スタジオ勤務を経て
フリーで自由に活動しています。
http://e123.sunnyday.jp